福井県の鯖江市と聞いて、すぐに何の話かピンとくる方は、なかなかのメガネ通であろう。
鯖江は、イタリアのベッルーノおよび中国と並ぶメガネフレームの生産地で、世界のメガネフレームシェアの20%を占める位置に居る。
この鯖江は、ここ最近苦境にある。
技術力こそ高かったものの、OEMへの対応が中心で独自のブランドを持っていた訳ではない。価格競争では中国には勝ち目が無い。
もともと販売サイドの力が強い業界である。中国製の生産技術が上がって、生産地の切替が始まれば、俄然経営は苦しくなる。
さて、ここ数年眼鏡店等で、この鯖江の名を目にする事が多くなったように思える。生き残りを掛け、鯖江ブランドとして独自の地位を築く為に必死の様子である。ベッルーノは、デザイン力を活かして高級化路線で成功している。製造技術の高い鯖江が同様の道を辿るのは自然な事である。
金子眼鏡店は、その鯖江製メガネフレームを販売している店舗である。店に入ると、クラシカルなメガネフレームが並んでいる。
今回は、そのフレームの中から、井戸多美男作のラウンドフレームを購入した。
色はマットゴールドである。肌色になじみやすく、ラウンドフレームにしては主張が控えめである。
このメガネがクラシックな雰囲気を出している要素の一つが、鼻掛け部分である。
通常ここはプラスチック製の鼻パッドが付くのであるが、このメガネはブリッジの湾曲部分を鼻にのせてメガネを支える形式になっている。
いわゆる一山といわれる意匠である。この部分には、滑り止めのシリコンを接着してある。一山の最大の利点はメンテナンスのしやすさである。鼻パッド部分に汚れがたまる事が無い。ただし、一日メガネをかけていると、鼻に一筋の跡がつく。
こちらは蝶番部分で、メガネ唯一の可動部分である。
個人的には、ここの出来具合の善し悪しに、制作者の技術が出ると思っている。
この、「井戸多美男作」はこの部分がカチッと決まっており、当然がたつきもない。非常に美しい。機能美というやつであろう。
価格は当然ながら高価である。フレームだけで3万円以上する。
中国製のそこそこの品質のフレームがレンズ付きで1万円で買える時代である。パッと見には全く分からないような微妙なニュアンスに3倍以上のお金を払うのはナンセンスと思えるかもしれない。
それでも私は、この買い物に満足している。安いメガネの購入を数回我慢して、一流のメガネを身につける方が、満足度が高いと思えるのである。